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2006年8月30日 毎日新聞 東京朝刊に掲載された記事です。

大麻草:環境にやさしい植物資源

 ◇見直される 環境にやさしい 大麻草
 環境にやさしい植物資源として、大麻草(英語名・ヘンプ)が見直されている。戦前までは縄やひも、衣服などに利用されていたが、戦後、化学繊維の普及で廃れた。しかし、ここ数年、麻の実の料理、衣類、化粧品、車の燃料、住宅建材など多くの用途に使われるようになってきた。環境教育の教材としても活躍している。【小島正美】

 ▲▼用途いろいろ
 大麻草の国内最大の産地は栃木県。現在、鹿沼地方の24農家が全国の収穫量の9割以上を作っている。栽培には都道府県知事の許可が必要で、赤羽根正美さん(73)=栃木県鹿沼市=は親の代から栽培している一人だ。大麻草は春に種をまくと、8月の収穫期には3メートルにも伸びる。刈り取った麻はいったん熱湯に浸した後、3日間ほど干す。さらに発酵させて、皮をはぎ取り、この皮を薄い繊維にして出荷する。赤羽根さんによると、かつて、助産師はへその緒を切るときに麻糸を使い、麻の肌着を赤ちゃんに着せたという。

 マリフアナなどの原料になるため、大麻取締法で栽培が規制されたうえ、化学繊維の普及もあって、戦後は栽培農家が激減。約20年前、栃木県農業試験場が幻覚成分をほとんど含まない新品種「とちぎしろ」を開発、生き残った。国産の麻は主に神社の鈴縄、弓の弦、力士の化粧回しなど日本の文化や伝統行事に使われているが、赤羽根さんは「後継者がいない。途切れてしまうのが心配」と話す。

 麻はやせた土地でも3〜4カ月で成長し、害虫にも強いことから、植物資源として見直す動きが世界的に出てきた。麻の魅力を満載した「ヘンプ読本」(築地書館)を著した赤星栄志さん(東京都)によると、麻の実は食料や化粧品、オイルは車の燃料、茎や葉は壁や床の材料、車の内装材、家畜の飼料、紙や医薬品の原料など数多くの分野で使われているという。

 赤星さんは「石油はいずれ枯渇する。麻なら日本のどこでも栽培できる。市民がもっと簡単に栽培できるよう行政が知恵を絞るべきだ」と話す。
ヘンプでできたジャケットやシャツなど。夏に着るとさわやかだ=川崎市宮前区土橋のうさとジャパン直営店で、小島正美写す

 ▲▼肌に合う素材
 一般に麻の服やシーツとして流通しているのは、亜麻(あま)(リネンともいう)や苧麻(ちょま)(ラミー)のことで、大麻ではない。
 欧米で活躍した服飾デザイナーのさとううさぶろうさん(タイ在住)はヘンプにこだわった衣類を作り続けている。人の肌に合った本物の素材を世界中に求めた結果、タイのヘンプにたどりついた。さとうさんの指導で、現在、村の人たちは草木染の麻で手織り衣類を作っている。

 さとうさんの手がけた衣類などを輸入・販売する「うさとジャパン」(京都市、電話075・213・4517)はワンピースやジャケット、Tシャツなどを扱う。値段は、亜麻を使った製品に比べても約8000〜2万円とけっして高くない。中村宜睦・代表取締役は「ヘンプは肌に抵抗感がなく、自然なやさしさが感じられる」と川崎市の直営店や全国約250カ所で展示販売を行っている。

 ▲▼教材でも活用
 城下町として知られる愛知県犬山市では、環境緑化研究会を主宰する岡村智恵さん(46)が中心になって、小学4〜6年生を対象に麻のワークショップを始めた。麻の糸を使ったアクセサリーの制作、麻の実を使った料理、麻の紙すきなどさまざまな活用法を学ぶ。
 岡村さんは「麻は外来種のケナフと違い、在来の植物。持続可能な資源として、日本のエネルギー問題を考える上でもよい教材になる」と話す。麻のワークショップに助成金を出す石田芳弘市長は「伝統的な木曽川の鵜(う)飼いの鵜匠も麻の装束で身を包む。犬山から麻の情報を発信していきたい」と麻の見直しに意欲的だ。

 ▲▼油は化粧品
 ゴマよりやや大きめの麻の実は七味唐辛子の一味として知られている程度だが、実は意外にいろいろな料理に使える。

 麻の実を使ったカレーやパンなどを扱う店が少しずつ出てきたが、早い時期から注目してきたのが麻の実料理の専門レストラン「麻」=東京都世田谷区北沢2、本社電話03・5738・1423=だ。8年前に開店し、創業者の前田耕一社長は麻の実の粉末や油、化粧品なども開発した。前田さんは、当初は雑穀の一つとしての興味に過ぎなかったが、料理を作って、出すうちに栄養価が高いことも分かり、レパートリーを広げていった。

 前田さんは「殻つきのままでいっても食べられるが、料理で一番使いやすいのは、殻を取ったナッツだ」と体験から話す。麻のナッツは白いゴマのような形で、味はクルミに似ている。ナッツを使った豆腐やコロッケは店のメニューでも好評だ。ごはんやサラダにふりかけたり、パンやケーキに混ぜて焼いてもよい。油はマヨネーズやドレッシングにも使える。

 実を搾った油は化粧品にもなる。無色透明で使用感はサラッとしている。皮膚への浸透力と保湿力にすぐれているのが特色だという。

 「麻」で扱う麻の実は中国の生産者と契約栽培したオーガニックの麻。前田さんは「栽培規制があって難しいが、三宅島や伊豆大島などで栽培すれば、町おこしになるはずだ」と普及に期待する。

 ▲▼ビールや車の燃料にも
 麻の実を使った地ビールもある。新潟麦酒(新潟市、電話0256・70・2200)が作ったのが「麻物語」(税込みで1本294円)。2次発酵の段階で麻の実を加え、ビール瓶の中で発酵させる独特の製法で作る。フルーティーな味やまろやかさが特徴だ。

 ナタネやヒマワリの種子の油がディーゼル車の燃料になるように、麻の実の油も燃料になる。軽油に比べて、硫黄酸化物の発生量が少ないなど利点は大きい。しかも、麻の場合、茎をアルコール発酵させれば、エタノールというバイオ燃料もできる。米国やブラジルではトウモロコシやサトウキビを発酵させてできたエタノールをガソリンに混ぜて走る車が増えている。

 麻のビールを開発した宇佐美健・新潟麦酒社長は4年前、麻のヘンプオイルを燃料にしてキャンピングカー(ディーゼル車)で日本を一周する先駆的な試みに取り組んだ。宇佐美さんは「世界的には植物由来のバイオ燃料が見直されている。いずれ麻も仲間入りするのでは」と予測する。

 ◇不足しがちなミネラル豊富
 麻の実はたんぱく質に富むだけでなく、鉄分、亜鉛、マグネシウムなどミネラルも豊富だ。どれも現代人に不足しがちなミネラルだ。

 心臓疾患など生活習慣病の予防になるα(アルファ)−リノレン酸も多く含まれる。α−リノレン酸は人の体内で健康効果の高い油として知られるDHA(ドコサヘキサエン酸)に変わる。現代人はナタネ油や紅花油などに多いリノール酸の取り過ぎが指摘されているが、麻の実の油はリノール酸とα−リノレン酸の比率が3対1とバランスがよい。

毎日新聞 2006年8月30日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/shoku/news/20060830ddm013100116000c.html

http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/shoku/news/20060830ddm013100153000c.html


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